天城神社

伊豆市湯ヶ島305(平成19年3月4日)

 この神社は伊豆半島の中央部に位置する湯ヶ島温泉に鎮座しています。温泉地の神社ですが、幹線道路からすこし奥に入った、静かでとても綺麗に整備された気持ちの良い神社でした。境内へはいると、鳥居のすぐ脇に市指定天然記念物「お宮の椎の木」がド〜ンと聳え、神社の歴史の重みを感じさせてくれますし、石垣の上・拝殿前には明和2年(1765)生まれのはじめ狛犬が、山犬を警戒しながら天城山を見据えていました。又、拝殿内には狛犬と同じ年に奉納された、市指定有形民俗文化財の絵馬が掲げられています。この時期の湯ヶ島村は、紀州尾鷲から炭焼き市兵衛を招き木炭製法を学んだ為、江戸城の御用炭となったり、椎茸やわさびなどの産物を通じて江戸との交流が頻繁になりました。この神社に残る数多い絵馬の中に、江戸の商人が奉納したものが見られます。
 境内には絵馬の案内はありましたが、神社そのものの案内が無く、御祭神、創建、由緒などは全て不明です。

神社入口 参道と境内の様子
市指定天然記念物「お宮の椎の木」 境内から入口を振り返る
拝殿
 明和2年(1765)生まれのはじめ狛犬。阿吽共に頭上に小さな突起のある、素朴で暖かみのある味わい深い狛犬ですが、何故か双方とも右方向を向いています。その瞳が見据える先は?…天城山?…。そう、このユニークな狛犬には天城に暮らす人達を護っているという不思議な伝説が今も語り継がれているのです。

 「弘法さんと狛犬」伝説
 『其の昔、天城には山犬がたくさんおってな、村人は大変困っていたそうな。んだけんども、村人は山犬退治の良い知恵が浮かばんかったんじゃ〜。そんなある日、肩の痛みに効くと湯ヶ島に湯治に来ていた旅人が、「おかげさんでス〜ッと肩の痛みがとれた」ちゅうて、川底から石を掘り出してきて、コツコツと狛犬を彫りはじめたげな。やがて彫りあがった狛犬は、それはそれは変わった姿をしておっての〜、なぜか同じ方向を向いているんじゃ。ところがこの狛犬を彫っとった旅人は、ふう〜っと村から姿が消えての〜、村人は「石屋のやつ間違いに気が付いてゆんべのうちに逃げ出したずら!」と大笑いしとったそうな。ところが不思議なことにその晩から、山犬の遠吠えがピタッとやんだんじゃ〜。
だから今でもこの狛犬は、2匹とも天城山の方へ首を曲げて睨んでいるずら。』

 こんな伝説が残るくらいに変わった風貌をしている狛犬ですが、置き方は異なるものの、同じ向きの狛犬を、陸前高田市気仙町・鹿嶋神社等で、過去に2対だけ見たことがあります。その時は深く考えないで「変な狛犬を造る石工さんも居たものだわ。」としか思いませんでしたが、もしかしたらそれらの狛犬にも面白い言い伝えがあるのかも知れませんね。
                     狛犬の拡大写真はこちらで
 
(明和2年(1765)5月吉日建立)
江戸後期建造の本殿
一間社流造 
軒唐破風・千鳥破風付こけら葺
市指定有形民俗文化財・明和の絵馬
 杉板を3枚張り合わせた大型の絵馬で「奉納御宝前 明和二年(1765)三月吉辰 河内氏□□ 印」の文字が記されています。